近年、「女性の活用」「女性の社会進出」など労働環境が変わりつつあり、女性の就業者が増えただけでなく、保育施設の充実など女性が長く務める環境作りが行われており、働く女性に関して社会的に関心が高まってきた。一方、働く女性の多くがライフサイクル、特に体調管理に関する問題を抱えているもののその認知度は低いため、「女性の健康」に関する問題が注目されている。この女性の健康を栄養学の立場から長年研究を進めてきているため、その一部を今回紹介したい。
女性の社会進出に伴い注目を集めているのが、月経前症候群 (Premenstrual Syndrome以下PMSとする)である。PMSは日本産婦人科学会によって「月経開始の3~10日前から始まる精神的・身体的症状で、月経開始とともに減退ないし消失するもの」と定義されている。PMSは腰痛、乳房痛などの身体的症状や、イライラするなどの精神的症状を伴う。それに伴い、集中力・意欲の低下や人間関係の悪化といった社会的行動上の変化も生じる。PMSの原因については、水分貯留説、卵巣ホルモン失調説、副腎機能失調説などが挙げられている。また、ライフスタイルに関する要因として、人間関係や日常生活行動( 食生活、嗜好品、睡眠、運動、ストレス )、ライフイベント等がある。しかしながら、未だPMSの認知度が低い。
このようにPMSは勤務状況に影響を及ぼすことから、女性の社会進出を妨げる要因の一つになっている。
PMSの治療に対しては、選択的セロトニン再取込阻害薬等による薬物療法が一般的に使用される 。一方、PMSの食事療法は、生活習慣の中核に位置する「栄養」・「運動」・「休養」の3要素が影響する。英国のThe National Association for Premenstrual Syndrome (NAPS)のガイドラインでは、最初に栄養改善と定期的な運動を含む食事療法を推奨し、特に食物繊維を含む炭水化物をより多く摂取し、脂質、砂糖、食塩、カフェインとアルコールを減らす。また、症状により、ビタミンB6やビタミンD、マグネシウム、カルシウムなどのミネラル、ビタミンや、ハーブ、大豆イソフラボンなどの補助食品を食事療法に補完的に摂取することを推奨している。
その中でも特に、大豆は「畑の肉」「ミラクルフード」と呼ばれるほど栄養が豊富で、特に貴重なタンパク源として知られている。大豆成分の特徴は、タンパク質、脂質、糖質の他にオリゴ糖を含む食物繊維やイソフラボン、サポニン、カリウム、鉄、亜鉛、マグネシウム、カルシウムなどの栄養成分が含まれている。
大豆に含まれるイソフラボンにはエストロゲン様作用があり、これはエストロゲンレセプターに結合して作用を発揮することから、エストロゲンが影響しやすい女性にとって有益な効果が期待されている。更に、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインから腸内細菌によって産生される活性代謝物「エクオール」が発見され、「エクオール」の健康意義が注目されており、私の研究では、PMSの身体・精神症状について、大豆イソフラボン摂取状況と尿中エクオール量などの調査等を行い、エクオール産生によるPMSとの関連を示唆するデータを得ている。また、エクオール産生に必要な大豆の摂取量が、若年者でとても低いことも明らかにし、大豆食品をPMSの栄養療法に取り入れる必要性を強く訴えてきた。
私は、「エクオール」の研究成果について、学会、講演会などで度々話をしてきた。
政府の「女性活躍推進法」の取り組みを追い風に、就業女性のライフサイクルに注目が集まっている中で、大豆に関する栄養学の知識は、働く女性、特にPMSに悩む女性にとって有益な情報源となることが期待される。また骨、関節や筋肉などに女性ホルモンが大きく影響していることは周知の事実であり、私は栄養学の分野でエクオールだけでなく、女性ホルモンと健康の関係についても研究を続け、全ての働く女性を応援していきたいと考えている。