日本では「夜中に何度もトイレに起きる」「急に、我慢できないくらい強い尿に見舞われる」「トイレに行きつく前に、尿が漏れてしまう」といった、排尿の悩みを抱えている方は、およそ810万人と推計されています。
ですが、地域で元気に生活している人ほど「恥ずかしい」「年だから仕方がない」あるいは「限られた診察時間のなかでは、医師に聞きたくても聞けない」と、おひとりで悩まれているのではと、とても気がかりでした。
これまで私は、医療機関や介護保険施設で療養生活を送る方々と支える看護職、介護職を助ける、排尿ケアに関するアセメント・ケアプロトコールや尺度の開発を行ってきました。前述の懸念から、昨年度から地域住民の皆様を対象とした公開講座を始めました。実際、開講してみますと、希望者多数という実情です。地域の皆様から直接ご依頼をいただき、排尿症状や治療・生活での工夫についてお話しさせていただく機会も増えてきました。
このコラムでは、数ある排尿症状(正式には下部尿路症状といいます)のなかでも、生活に影響することも多い夜間頻尿について「夜間頻尿診療ガイドライン」に則って記します。
夜間頻尿の定義は「『夜間、排尿のために1回以上起きなければならない』という訴え」です。しかし実際には「本人または介護者が(夜間頻尿で困っていて)治療を希望している」ことが重要です。仮に、夜間にトイレで起きたとしても、ご本人が困っていない場合は医療上も問題になりません。わが国では、夜間排尿2回以上から、男女とも生活に支障があると訴える方が急増することが明らかになっています。そのため、臨床上は夜間2回以上の排尿から問題にしています。
もし、あなたが夜寝てから朝起きるまでにトイレに起きてつらい、あるいは気になる、と医療機関を受診したら、医師は、夜間頻尿とそれ以外の排尿症状や生活への影響、既往歴や治療状況、水分・アルコール・カフェイン等の摂取状況等について尋ねます。あわせて、尿検査(尿取りコップにとる、あれです)も実施します。ここまでの情報で、1)夜間頻尿のみ、2)夜間頻尿と昼間頻尿があるが、他の排尿症状はない、3)夜間頻尿、昼間頻尿、他の排尿症状もある、に、おおよそ分けることができます。1)2)の場合は、夜間多尿(あるいは多尿)か否かを判断するために、医師はあなたに排尿日誌(通常三日間)つけていただくことをお願いします。排尿日誌の結果で、夜間多尿、多尿の有無を判断できるからです。夜間多尿(あるいは多尿)だった場合は、尿の過剰産生が疑われます。治療は、その原因となっている疾患(糖尿病、尿崩症等)の治療や生活習慣(水分の過剰摂取等)の是正を行います。排尿日誌の結果から、夜間多尿(多尿)でなかった、あるいは3)に該当すると判断した場合は、睡眠障害や膀胱の機能障害が考えられ、専門医へ紹介させていただくことになります。
つまり、夜間頻尿の原因は、膀胱機能障害のほか、他の疾患の存在や生活習慣の影響等、複数の原因が考えられるのです。なかでも、水分の過剰摂取や夕食以降のアルコール・カフェインの摂取、就寝時間が早い(例:19時~20時に就寝、結果として夜間に排尿がある)等、は生活の中で調整できます。少なくとも、夜、トイレに何度も起きて大変だ、という方は、一度、夕食以降のアルコール、カフェインを控えることをお勧めします。水分の適切な摂取量については、罹患している疾患や服用している薬剤でも変わります。飲みすぎかな、と考えられる方は、一度、食事以外の水分摂取状況(何時に、どのくらい、何を飲んでいるか)を2~3日計測して、かかりつけ医に相談してみてください。
最後に、夜間頻尿のほか、尿の性状の変化(血尿・膿尿)や痛み(排尿痛、膀胱痛)がある場合は、生活への影響の有無に関わらず、医療機関を受診してください。炎症(膀胱炎、尿道炎)や結石、がん等が潜んでいることがあります。
参考文献
日本排尿機能学会、夜間頻尿診療、ガイドライン作成委員会編:夜間頻尿診療ガイドライン.2009.
日本排尿機能学会、男性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会編:男性下部尿路症状診療ガイドライン.2008.
日本排尿機能学会、夜間頻尿診療、ガイドライン作成委員会編:夜間頻尿診療ガイドライン.2009.
日本排尿機能学会、男性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会編:男性下部尿路症状診療ガイドライン.2008.