がんの治療では、手術療法や薬物療法、放射線療法などを組み合わせる集学的治療が行われます。これらのがんの治療による「外見の変化」は、患者さんにとって身体的な負担のみならず、心理的・社会的に大きな負担となっています。外見の変化のような、がん患者さんの治療や療養生活上の問題へのケアは、外来や病棟、抗がん剤治療を行う通院治療センターなどで行われていますが、特に「相談支援センター」では、専門的な知識や技術を修得した認定看護師や専門看護師が相談に応じています。
薬物療法では、抗がん剤や分子標的治療薬、抗ホルモン療法薬などがあり、がんの種類に応じた治療が行われます。「抗がん剤」と聞くと、「吐き気(悪心:おしん)」をイメージすることが多いかもしれません。すべての抗がん剤が悪心を引き起こすわけではありません。30年ほど前から、抗がん剤による悪心を強力に抑える薬物が開発されるようになり、現在は、悪心による生活への影響はほとんどありません。
悪心に代わって、抗がん剤による頭髪やまつ毛・眉毛の脱毛、手・顔・爪の変色(色素沈着)、爪の変形などの「外見の変化」の生活への影響が注目されています。すべての抗がん剤が、このような外見の変化をもたらすわけではありません。しかし、外見の変化が生じると、仕事や育児・介護などの場面で周囲の方の視線が気になって今までのような役割を果たすことが困難になったり、また、高齢のがん患者さんの場合には、趣味やボランティアの活動やデイサービスなどの外出がおっくうになったりして、生活活動の低下が生じることになります。
外見の変化へのケアでは、頭髪の脱毛に対しては、ウイッグ(かつら)や帽子を患者さんに紹介します。病院によっては、ウイッグのサンプル展示があったり、ウイッグメーカーによる展示会が行われます。頭髪の脱毛を予防する頭皮冷却装置も開発されていますが、高額なため普及にはまだまだ時間がかかりそうです。外見の変化へのケアでは、眉毛の脱毛や顔の皮膚の変色(色素沈着)をメイクでカバーする方法や、爪の変色に対して色の濃いマニュキア使用する方法、爪の変形時にテープで保護する方法などを患者さんに説明します。
一方、手術による創(きず)や変形や喪失などの「外見の変化」へのケアでは、手術による創(きず)もメイクに使うファンデーションで目立たないようにカバーすることができます。乳がんの手術による乳房の変形や喪失に対しては、シリコン製補整パッドや下着の着用方法を紹介したり、頭頚部がんの手術による顔面や顎の変形や喪失などに対しては、シリコン製のエピテーゼを紹介したりします。
近年では、「見た目」をカバーするだけではなく、外見の変化が生活にどのように影響しているかを考え、周囲の人との関係性や場面・状況に着目して心理的・社会的なケアを行う「アピアランスケア」が重視されています。
「アピアランスケア」とは、「がんと治療によって外見の変化が生じる患者に対して、その身体的問題、心理的問題、社会的問題をアセスメントし、医学的・整容的・心理的・社会的手段を用いて、外見の問題から生じる患者の苦痛を緩和することによって、クオリティ・オブ・ライフを改善する医療者のアプローチ1)」と定義されています。アピアランスケアの実践によって、がん患者さんの療養生活を支える看護師の役割が拡大しています。
1)野澤桂子:がん診療の副作用マネジメント 6支持療法としてのアピアランスケア.Precision Medicine3(4), 30-33,2020.