東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

アラン・チューリングと現代の情報技術

医療保健学部 医療情報学科
岩上 優美

英国時間の2019年7月15日,「アラン・チューリングを新しい50ポンド紙幣の絵柄に採用する」と イングランド銀行から発表されました [1].アラン・チューリングといえば,ナチス・ドイツ軍の暗号機「エニグマ」の解読で有名で,『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』という映画にもなっています.本コラムではアラン・チューリングの功績が現代のコンピュータや情報技術に与えた影響について考えてみたいと思います.

チューリングの功績といえば,前述した「エニグマ」の解読が有名ですが,チューリングは,現在のノイマン型コンピュータの原型に相当するチューリング・マシンを使い,どんな計算でもアルゴリズムさえ書ければ解くことができることを証明しました(チューリングの計算理論).また,1950年に論文『Computing Machinery and Intelligence』で提唱された,「機械は考えることができるか」という問題に対して「性能が発達した未来ではそれが議論に値しないほど当然の事実となる」と答えています[2].つまりチューリングは「知能を持つ機械」について研究していたのです.この問題を検証する,「チューリング・テスト」があります.チューリング・テストはイギリスのパーティ・ゲームからヒントを得たと言われており[2],Aを人間,Bをコンピュータとし,質問者Cがチャットで質問をしてそれに対するAとBの答えから質問者Cが,AとBのどちらがコンピュータか当てるというもので,30%以上の試験官が人間だと判断したコンピュータは知能があると判定するものです.このテストは「知能とはなにか」という抽象的概念を具体的にするために示したものですが,人工知能(Artificial Intelligence:AI)が「いかに人間らしく振舞うか」を測るために使われることがあります.これらの功績により,現代のコンピュータ科学の生みの親とも呼ばれ,人工知能の父とも呼ばれています.

現在,第3次AIブームで盛んに研究されているAIですが,コンピュータの高性能化に伴い,機械学習や深層学習などが身近なコンピュータでも可能になり,注目されていますが,大量のデータとその答えを人間が学習させる必要があります.確かに,人間に判断のつかない特徴を見つけることや大量のデータを高速に処理することが可能になってきていますが,アルゴリズム,分類・回帰の手法の選択,プログラミングなど,すべて人が行うものです.これには,使う人が何を目的にどうやって使うのかを考え,学習し,その結果を正しく分析・判断できることが前提にあると考えます.(「とりあえず機械学習で分類してみよう」と考えてしまうことのある筆者に自戒の念を込めて・・・)

最後に,アラン・チューリングは同性愛の罪で逮捕され,科学的去勢によって入獄は免れたものの,41歳で非業の死を遂げています.チューリングに興味を持った方はぜひ調べてみてください.

参考文献
[1] 新50ポンド札にアラン・チューリング コンピューターやAIの先駆者
  https://www.bbc.com/japanese/48991921(2021年6月20日アクセス)
[2]高橋昌一郎著,「ノイマン・ゲーデル・チューリング」,筑摩書房(2014)

教員データベース:岩上 優美⇒

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