東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

寿命とヘイフリック限界

医療保健学部 医療栄養学科
清水 雅富

日本人の平均寿命はどんどん延び、今や「人生80年」から「人生100年」の時代へ向かおうとしています。ところで、「寿命とは何で決まっているのか?」「どうしたら長生きできるのか?」というような疑問について、誰でも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。ちなみに、これまでの人の最長寿命は、1997年に死去したフランス人女性の122歳だそうです。

そもそも我々自身は、母親からつくられた卵子が精子と受精した後に、ただ一つの細胞として生を受け、それが分裂し自身の体をつくり出しています。さらにこれら細胞は、古くなったり傷ついたりすると、自己複製し常に新しい正常な細胞に置き換わることで、生命活動は維持されています。これらのことから考えると、我々の寿命を決定しているものは、細胞ということになるでしょう。だから、細胞がいつも新しく元気であれば、我々自身もいつも健康ですし、正常な機能を持った細胞が無限に分裂でき再生できれば、我々自身も一生死ぬことはないでしょう。しかしこれら細胞の分裂回数は、有限であることが知られています。これはヘイフリック限界と呼ばれ、人間の細胞分裂の回数の自然な限界をさしています。ヘイフリック限界がおとずれた細胞は、分裂することをやめ細胞老化と呼ばれる状態となり、やがてその細胞は死を迎えます。この細胞死がすなわち、我々の寿命ということになるのでしょう。

ではなぜ我々の寿命は、ヒトという同種間で同じ細胞を持っているにもかかわらず、個々で寿命の長さが違うのでしょうか。その答えには、2009年のノーベル医学生理学賞を受賞した「寿命のカギを握るテロメアとテロメラーゼ酵素の仕組みの発見」によってかなり近づいたのではないでしょうか。細胞の分裂回数は、細胞の奥深く染色体の端にある「テロメア」と呼ばれる部分で決まっており、細胞分裂を繰り返すたびに「テロメア」の部分が短くなっていき、ある程度短くなると細胞はヘイフリック限界に達します。その常識を覆したのが、「テロメラーゼ」という酵素の発見でした。テロメラーゼは、テロメアが短くなるのを遅らせたり、さらに伸ばしたりすることができます。実は、人間の細胞には必ずしもヘイフリック限界が存在しない細胞もあり、それらの細胞ではテロメラーゼが十分存在し活発に活動していることがわかっています。更に近年の研究報告によって、がん、心疾患、認知症等の数多くの疾患や外観の老化に関しても、テロメアの減少と関連していることがわかってきています。したがってテロメアの長さを保つことができれば、人間の細胞の多くは、繰り返し分裂することができるはずですし、それにより寿命も延びることが期待されます。実際、運動や食事などの生活習慣の改善、日常のストレスを軽減によって、テロメアが伸びることも証明されています。

ここで話をはじめの最長寿命の話に戻すと、これまでの人の最長寿命は122歳、しかもこの記録は、20年前に到達したまま破られていない記録です。とある研究チームの研究報告では、人間の寿命には上限がありそれを超えることは恐らくできないだろうということをいっています。なぜなら、「過去100年でこれだけ医療が進歩し、平均寿命はコンスタントに伸びているにも関わらず、最長寿命には自然界の限界がありそれを超えられないというのは驚くべきことだ。どれだけ健康的に長生きしても寿命は決まっており、ある年齢に達すると人間の体も期限が切れてしまうのだろう。」

これから急速に進歩する医療と科学の中で、人の最長寿命の年齢122歳を超える記録が私の寿命までに塗り替えられるのか、楽しみでなりません。

教員データベース:清水 雅富⇒

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