グローバル化が進む中,日本の研究者にとって英語による研究成果の国際的発信の必要性はますます高まっている。国際学会に参加すれば,研究発表,ワークショップ,コーヒーブレークやランチなど,様々な状況において海外の研究者と交流する際の国際共通語は英語である。研究者にとって,英語で論文を読み書きし,英語によるポスター発表や口頭発表など,日頃から英語を使用する機会は多い。
しかし,日本の研究者が直面している状況や問題は大きく二つ考えられる。一つは,英語を学習することにさける時間を確保できないことである。もう一つは,所属研究機関で組織的及び継続的な研修やサポートがない場合,各自で英語の勉強法を確立し学習せざるをえないことである。このような状況下で,英語が切実に必要とされる医療研究などの分野において,研究者が効率よく英語を学ぶにはどうすべきだろうか。
まず,研究者各自が英語を使用して学術研究を行う際に,英語に関して日頃どのような問題に直面し,自分にとってどのようなサポートが必要であるかを認識することが重要だと思われる。研究者を取り囲む国際的環境が複雑化し,求められる英語運用技能も高度になってきている中,多くの日本の研究者にとっての課題は,(1)ライティング,口頭発表,討論などの際に英語で発信するための力を養成することや,(2)海外の研究者と国際的学術交流(ソーシャライジング・ネットワーキング)する際に必要とされる研究者のための英会話やリスニング訓練など多岐にわたる。
しかし,現時点では,日本の研究者の学術英語をサポートするための対応は不十分である。このような状況に対応するために,「研究者のための英語」を主題とし,日本で活躍する80万人の研究者に対して英語による研究成果の国際的発信の支援を行っている学術英語学会の活動について簡単に触れたい。学術英語学会では,日本国内の多方面で活躍する多くの研究者を対象に,年に1度の研究大会に加えて,英語に関して定期セミナーや目的別の学習会やワークショップが開催されている。また,インターネット上で研究者のための英語に役立つ情報が発信されているので,日本国内の研究者がこのような専門的な学術支援活動を有効に活用することが期待される。
また,最近はグーグル翻訳などのニューラル機械翻訳の精度が劇的に向上した結果,研究者が英語を使用して学術研究を行う際に機械翻訳を活用することも可能である。2018年に学術英語学会が行ったアンケート調査では,「あなたは英文の作成などに機械翻訳(Google翻訳,Microsoft Translator, Weblioなど)を使いますか」という質問に対して,約63%の研究者(院生・教員)がこれまでに研究過程で機械翻訳を使用したことがあると回答した。各々の機械翻訳の使用目的は,研究者自身が書いた英文チェック,表現の参考,英文を読む際に使用する,など様々であった。機械翻訳だけでなく,インターネット上で無料で使用できる英語ライティング支援ツール等を効果的に活用することで,日本の研究者が英語を使用して研究活動する際の時間や負担を軽減できるだけでなく,効率的に英語を学習することができるだろう。
今後,日本の研究者にとって,国際共通語である英語で研究成果を世界に発信する必要性はさらに高まっていくであろう。このような状況において,十分なサポートが得られないまま苦労している研究者に,一つの提案として,上述したように日本の研究者を支援することを目的とした学術英語支援活動に参加し専門家から訓練を受けることや,インターネット上で無料で使用できる機械翻訳や英語学習支援ツール等を活用することで,英語による学術研究全般の質を高め,世界に向けた学術研究への貢献を促進できるよう願っている。
参考文献
学術英語学会
http://j-ser.org/
崎村 耕二 (2014). 日本の研究者と英語の必要性:日本の高等教育研究機関における英語サポートプログラム構築のために(報告書)
http://j-ser.org/wp-content/uploads/2017/03/SurveyEnglishAndJapaneseResearchers.pdf