毎年のように冬が近づくとインフルエンザや感染性胃腸炎が流行する。原因となる微生物はインフルエンザウイルスとノロウイルスである。ウイルスは、病原性大腸菌O157やカンピロバクターなどの細菌と異なり、感受性細胞の代謝系を利用してウイルス粒子を作成し、細胞外に放出することで増殖する。細菌もウイルスも肉眼では見ることができないほど小さいため、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察する。しかし、実験的に、細菌は適切な培地に塗布し培養することで、肉眼で見ることができる集落(colony)として目にすることができる。ウイルスは、宿主となる培養細胞にウイルスを感作させ、ウイルスが増殖することにより起こる培養細胞の形態変化(細胞変性効果)を光学顕微鏡下で目にすることができる。
下痢や風邪のような疾患を起こす病原微生物や、食品を腐敗させる菌は、悪いイメージで「バイキン」ともいわれるが、微生物にしてみるとその場で生息しているに過ぎない。枯れた植物が微生物によって分解されなければ、豊かな土壌は作られないし、下水処理においても微生物の働きにより水環境が浄化されている。また、味噌、納豆、ヨーグルト、日本酒、ワインなどの発酵食品・飲料などは、ヒトにとって有用なありがたいものである。いずれにせよ、微生物にとっては生きるために代謝しているだけで、その産物の違いで人が「腐敗」・「発酵」と区別しているに過ぎない。ヒトと微生物、見方・考え方の違いは面白い。
病原微生物による感染拡大を防止するためには、感染源の特定と対策、感染経路の遮断が重要である。従来、感染源対策と感染経路の遮断に使用される消毒薬や洗浄・消毒・滅菌機器の開発、導入、普及はメーカー主導で行われ、医療現場での実情を反映できておらず、アフターフォローも不十分であった。私はこの検証のために、微生物(細菌やウイルス等)の性状を考えて、試験方法を最適化し、実施し目に見える形にデータ化(目にして実感)してきた。そこから得られた結果から、消毒薬や洗浄・消毒・滅菌機器の性能及びその使用方法についてのevidenceを提示してきた。医療機器・消毒薬等は、その使用対象や目的別に使い分けられているが、殺菌効果を求めるだけでなく、使用者に対する安全性の確保を行うことが重要である。さらに、使用後に環境に与える影響を考えるべき時期に来ていると感じている。水系・陸域生態系への影響、そして生物蓄積性等である。その解決策として、一つの素材の多面的かつ無駄のない利用、そして殺菌機構を考えたうえでの効果的な併用・組み合わせを確立する必要があると考えている。
科学的に客観的に評価・判断され安全がある。そのうえで、医療従事者・患者をはじめヒトそれぞれの主観として安心がある。医療行為を介した感染事故の防止に向けた安心安全のために、少しでも良い装置の開発、消毒薬の開発改良をしていきたい。臨床現場で感染制御業務にあたる医療従事者や、企業等において感染制御関連業務に携わる方々とともに共同研究を行うことで、産学官連携を推進し、臨床現場に活かせる研究を大学院と感染制御学教育研究センターで行っていきたいと思っている。