乳酸菌とは、糖を発酵してエネルギーを得、多くの乳酸を生産する細菌の総称です。「乳酸菌」という総称は分類学的な位置づけを示しているものではなく、慣用的な名称で、古くから人間の生活に深く関わり身の回りの発酵食品の製造に不可欠な微生物です。
19世紀にL.Pasteurが乳酸酵母(乳酸菌)を発見し、J.Listerが酸乳から乳酸菌 (Lactococcus lactis)の単離に成功後、次々と乳酸菌が分離されました。
S. Orla-Jensenはグラム染色・糖の発酵性を基に分類体系を提唱し、20世紀初めにはLactobacillus属、Pediococcus属、Streptococcus属、Leuconostoc属の4属の乳酸菌が確立されました。
乳酸菌の定義として、グラム陽性、形態(桿菌または球菌)、カタラーゼ陰性、運動性がなく、内生胞子を形成しない、消費したぶどう糖に対して50%以上の乳酸を生産する(乳酸発酵形式homo 型またはhetero型)細菌とされています。その後、化学分類学的性質により乳酸菌は低G+C細菌群(Firmicutes門)に含まれ、16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統解析で6科33属に分類されています。一方、ビフィズス菌はH.Tissierにより母乳栄養児の糞便から分離(Lactobacillus bifidus)され、グラム陽性、運動性がなく、多様な形態を示す多形成桿菌、芽胞の形成および抗酸化性はない、消費したぶどう糖に対して主に酢酸と乳酸を生産し乳酸量は50%に満たない細菌です。化学分類学的性質によりビフィズス菌は高G+C細菌群(Actinobacteria門)に含まれ、16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統解析で1科7属に分類され、Bifidobacterium属は分類学状の位置が乳酸菌とは門レベルで大きく異なっています。
I.Mechnikoffが提唱したヨーグルトの不老長寿説は、ヨーグルトに含まれる乳酸菌に対する栄養学・生理学的な研究を促す契機となり、乳酸菌を含む腸内細菌に関する研究とともに健康についても多くの研究が行われてきました。
21世紀は予防医学の観点から、日常の食事により疾病を予防・改善しながら健康を維持することに関心が集まり、乳酸菌・ビフィズス菌の健康を保つ機能がプロバイオティクスとして注目されています。特に乳酸菌・ビフィズス菌による腸内菌叢の改善を介した整腸作用、免疫の活性化、感染防除・アレルギーの予防・血圧降下作用・脂質代謝改善作用などの機能が期待されています。
未病を克服するため、腸内菌叢をより良い状態に保つため、安全であるプロバイオティクス乳酸菌・ビフィズス菌を選択し摂取することで効果が得られる応用研究のさらなる進展が望まれます。
参考文献
乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス 日本乳酸菌学会編 京都大学学術出版会 2010年
乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス 日本乳酸菌学会編 京都大学学術出版会 2010年