東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

遺伝と健康

医療保健学部 看護学科
篠木 絵理
「遺伝」ということばにどのようなイメージをもたれているでしょうか。
 
医学大辞典(医学書院)によれば「遺伝とは,親のもつ遺伝情報が遺伝子によって子孫に伝達され,その作用によって形質が発現すること」とあります。
 
2003年ヒトゲノム(人間の遺伝情報の1セット)の全解読が報じられて以来,一般にも遺伝や遺伝子に関心が寄せられました。遺伝子は生命の性質にかかわる情報を示すものです。同じように使われる「DNA(デオキシリボ核酸)」は、実体を持つ物質で遺伝子として働く部分を含みます。遺伝子には人間の細胞を形作る情報があり、その情報によって人間の細胞は形作られます。
 
細胞にある「核」のなかにDNAが存在し、細胞分れるにときにはDNAが折りたたまれて顕微鏡で観察できるようになりますが、これを染色体と呼んでいます。人間は一つの細胞内に46本の染色体があり、これは、生物学的な父親・母親から、それぞれ半分の染色体23本ずつを受け継ぎます。
 
身長や皮膚の色あるいは血圧や血清コレステロール値などの形質(目に見える形や性質)は、生物学的な両親のどちらかに似ているのですが、同じではありません。これらの形質が、多数の遺伝子によって支配され、環境要因による変化も加わるからです。そこで血縁関係のある家族において、顔つきや身体つきが異なるなどの多様性が認められます。
 
さて「健康」はどのくらい遺伝の影響を受けているでしょうか。例えば、赤ワインやチョコレートには抗酸化作用のあるポリフェノールが豊富に含まれ、脳細胞が酸化し壊されるのを防ぎ認知症予防になると注目されました。このような食品に含まれる成分により病気予防につなげようとすることは、健康は日常生活の食事という環境要因による影響をうけ、また予防しうることを誰もが知っているともいえます。しかし、健康によいからといってそれだけで、あるいは多くとれば健康によい影響を与えるわけではありません。運動習慣がない、就寝直前に食事をとるなどの適切でない生活習慣は、続けることにより健康に影響を与えるように、適切な生活習慣も同様に続けるという時間の経過も健康に対しては影響を与えます。健康を考えるには、遺伝と環境と時間のいずれかのみではなく、3要素のバランスで考えることが大切となるわけです。
 
様々な病気の中には、「遺伝子の変化」によって引き起こされる病気があります。「遺伝子の変化」は予想以上に多くあると考えられていますが、病気の原因になるのは少なく、多くは人間の健康に影響をあたえません。現在、病気を発症していなくても、すべての人が病気にかかわる遺伝子を潜在的に何種類かは持っていると考えられています。多くの場合は、遺伝子のみで健康状態が決められているわけではないのです。これからの健康を考えるにあたり、遺伝(遺伝子)と環境と時間のバランスについて、参考にしていただけますと幸いです。

<参考文献>櫻井晃洋:そうなんだ!遺伝子検査と病気の疑問 モヤモヤを解決する33 メディカルトリビューン 2013
 
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