「Carpe diem(カルペディエム;その日を摘め)」。これは、紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場する有名な語句です。「一日の花を摘め」、「一日を摘め」などとも訳され、私の好きな言葉の一つです。
日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えていますが、リンダ・グラットン教授の著書「ライフ・シフト―100年時代の人生戦略」が発端となり人生100年時代と言われるようになりました。そして、高齢者から若者まで、全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる社会、安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題となっています。
では、自分が100歳まで生きるのかについて皆さんはどう思うでしょうか?いささか懐疑的にならざるを得ません。また、人生最後の日を正確に予測することは神様でもない限りできません。しかし、何も打つ手が無いわけではありません。
寿命計算機をご存じですか?最近では保険会社の多くがウェブサイトで無料提供しています。ご興味のある方は面白いのでぜひ試してみてください。この計算機が正確な寿命を算出してくれるわけではありませんが、現在の年齢、性別、身長、体重、喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、ストレス対処などの健康因子などについての質問に答えることで寿命の予測値が得られます。もしかすると100歳まで生きられるという喜ばしい予測値が出るかもしれません。ただ、自分の人生の残り時間を予測するのは、あまり楽しいことではないでしょう。しかし、楽しい楽しくないにかかわらず、自分自身が「あとどれくらい生きられるのか」を真剣に考えてみることには価値がありそうです。
人生の残り時間を意識することは、いま現在の自分の行動に大きな影響を及ぼすと思います。私は、自分の推定死亡日までの日数をカウントダウンするアプリを使って推定される人生の残り時間を時々見ています。やはり「そんなアプリを使うことは縁起でもない。」と思う人もいるかもしれません。けれども、デジタル表示された数値から死を意識することで、人生という限られた時間の大切さを実感できると私は思います。
健康に生き経験を最大化するために、限られた時間とエネルギーをどう使うべきか。私たちはもっと真剣に考えるべきで、そうすることで人生を最大限に豊かにすることに繋がっていくのだと思います。終わりを予測し、残りを意識することよって生き生きとした明日になるかもしれません。
厚生労働省により2年おきに作成される「簡易生命表」が公表されています。簡易生命表は、日本における日本人について、1年間の死亡状況が今後変化しないと仮定し、死亡率や平均余命などの指標が表されています。
令和4年簡易生命表では、男性が生まれてから65歳まで生きる確率は0.896、75歳まで生きる確率は0.753、90歳まで生きる確率は0.255、95歳まで生きる確率は0.087と算出されています。生まれてから95歳まで生きるということは、「65歳まで生き、さらに95歳まで生きる」ということであるので、計算式に表すと、
(0歳から95歳まで生きる確率)=(0歳から65歳まで生きる確率)×(65歳から95歳まで生きる確率)
となります。これより、簡易生命表から得た数値を代入し移行すると、65歳から95歳まで生きる確率が算出でき、
(65歳から95歳まで生きる確率)=0.087÷0.896=0.097が求められます。65歳から95歳まで生きる確率は、なんと0歳から95歳まで生きる確率(0.087)を上回っています。同様に、75歳および90歳から95歳まで生きる確率を計算すると、
(75歳から95歳まで生きる確率)=0.087÷0.753=0.116
(90歳から95歳まで生きる確率)=0.087÷0.255=0.341
と求められ、75歳(0.116)、90歳(0.341)といずれの歳も95歳まで生きる確率は、0歳から95歳まで生きる確率を上回ります。つまり、65歳まで生きれば9.7%、75歳まで生きれば11.6%、90歳まで生きれば実に34.1%の確率で95歳まで生きられるということになり、年齢を重ねるほど確率は上がってきます。これは、今日という日を生き切り、それを日々経験や成果を積み重ねることの先に人生100年が見えてくるということなのです。
古代の人が肌で感じ語り継いできた真理は、現代の公的に算出された統計表からも確率の発想を用いて証明できます。これはまた、自らの人生の一回性、有限性を知るからこそ、今日という一日を大切に生きなければならない理由とも重なります。
人生100年時代、今日も昨日と変わらずに、明日も今日と同様に「一日の花を摘ん」でいきたいものです。
・文部科学省「人生100年時代構想会議中間報告」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/siryou/__icsFiles/afieldfile/2018/02/22/1401465_8.pdf
・厚生労働省「令和4年簡易生命表」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/dl/life22-06.pdf
・佐治晴夫「この星で生きる理由 過去は新しく、未来はなつかしく」アノニマ・スタジオ