チーム医療という言葉は今では当たり前になっていると思います。学生にも「多職種チーム、看護チームの一員として」という言葉を使います。チームという言葉は、スポーツや企業、学校でも日常的に使われ、成果を上げるためにチームで取り組むことが大切と言われていますが、医療における「チーム」とは、どのチームを言うのでしょうか。
そもそも「チーム」とは何か、定義は多様ですがSalasらの定義*が使われており、「価値ある共通の目標や目的の達成あるいは職務の遂行のために、ダイナミックで相互依存的、適応的な相互作用を行う2人以上の人々からなる境界明瞭な集合体」とされています。ここでいう目標とは、チームでなければ達成できない目標であり、個々のメンバーの総和以上の成果が期待されるから「チーム」なのです。スポーツチーム、企業のプロジェクトチームなどをイメージしたとき、あなたの所属するチームのメンバーは?目標は?と尋ねると、おそらく同じチームの誰に聞いても同じ答えが返ってくるのではないかと思います。
医療の場では、栄養サポートチームや感染対策チームなど、より専門的な医療を提供するために、意図的に集められた多職種で構成され組織横断的に活動するチームがあります。このチームは、チームが形成された目的もチームメンバーも明確です。しかし、病院で医療従事者に「あなたのチームメンバーは?チームの目標は?」と尋ねても、簡単には答えられないかもしれません。チーム医療として考えると、患者ごとに必要な職種で構成されたチームが存在し、医療従事者は同時に多くの異なるチームに所属しているからです。
また、患者が抱える課題によって必要な職種も変わります。そのため、医療従事者は自分が担当する患者の数だけチームに所属し、患者ごとにチームメンバーやチームで目指す目標が異なり、取り組む課題やその時の患者の状況によってもメンバーは異なるのです。病院から地域に療養場所を移行する際には、地域でかかわる医療介護福祉のメンバーと一時的にチームとなり、スムーズに移行できるよう連携が必要となります。
このように、患者(または利用者)1人1人のチームに焦点をあてると、チームの境界は流動的であり多様で複雑なのです。さらに、チームメンバーである看護師は交代勤務のため、日によって入れ替わり、ともするとチームの境界が担当看護師ではなく看護師チームまで含んでしまいそうです。もともと看護師はチームで働くという意識がありますが、多職種がチームとなり医療を提供することが求められる中では、看護師が日々入れ替わることはチームにとってデメリットかもしれません。だからこそ、どの患者のチームのメンバーとなったとしても看護師の代表としてメンバーの役割を遂行できるよう、より一層看護師チームの質が求められているのではないでしょうか。
近年では、患者や家族もチームの一員であるという考え方が広がっています。医療や介護を必要とする対象者の課題が複雑になってきており、チームの考え方が変化してきているからこそ、「チーム医療」という言葉を使い続け、常に意識していくことが必要なのでしょう。医療の場におけるチームは多様で、日々の実践においてはチームの境界が曖昧で流動的となり、チームが真に成果を上げていくことは難しいと思います。そのため、医療におけるチームを理解し、チームの一員として必要なスキルを学び、どのチームに所属してもチームの目標達成に貢献できる人材がますます必要だとあらためて感じます。臨地実習で1人の患者を継続して担当する看護学生が、受け持ち患者への看護実践を通して、患者と看護師チームや他職種との橋渡しの役割を担っていると感じることがあります。このように、実践の場で学生とともにチームの一員としての役割を考える機会を作っていきたいと思います。
*引用文献:Salas,E. et al. (1992). Toward an understanding of team performance and training. In R. Swezey & E.Salas (Eds), Teams: Their Training and Performance.pp.3-29.