全国の教員数の3.1%、37,872名。これは学校の保健室に常勤し(概ね各学校1名)、子どもたちの心身のヘルスケアを担う「養護教諭」の教員全体における就業者数です(平成29年度文部科学省学校基本調査より)。
皆さんは「養護教諭」という職をご存知でしょうか。かつて「養護教諭」という名称はあまり普及しておらず、「養護」教諭は養護学校(今で言う特別支援学校)の先生と思われたり、名称がなかなか理解されないため、養護教諭自身も自らを「保健室の先生」と呼んだりしていました。今、この「養護教諭」が、学生に大変人気のある職業の1つになっています。
そもそも養護教諭という名称が誕生したのは、戦後の学校教育法において、「学校に常勤する教員」として、校長や教諭と同様に規定されたことに始まります。その職務内容は「児童の養護をつかさどる」と明記されており、教育職員として教員免許状(養護教諭)の取得が求められているのです。しかしその前身は、国民学校令が施行された明治時代の「学校看護婦」にあると言われています。明治時代、「学校看護婦」はどのような仕事をしていたのでしょう。
当時の学校の環境は大変劣悪で、廃墟となったお寺などが充てられていたといいます。またトラホームという感染症が大人にも子どもにも大流行し、子どもたちの洗眼治療を行う学校医の補助をするために同行した看護婦が「学校看護婦」の起源とされています。このように養護教諭の仕事は、いつの時代も子どもの健康課題解決のためにあったと言えるのですが、明治時代から現代までの詳細な歴史については、また別の機会に。
現代では、昭和33年施行、平成20年改正の「学校保健安全法」が子どもたちにヘルスケアを提供する代表的な法律となっています。法に示されている学校保健には、保健管理(Management)と保健教育(Teaching)という領域があります。保健管理は、例えば毎年行っている健康診断、毎朝行っている健康観察などを指しています。また、学校の水道水の安全や、照度や騒音などの環境衛生に関することも保健管理の内容です。保健教育には、学習指導要領に則り教えられる「保健学習」や日常の生活習慣などを扱う「保健指導」、救急処置などの場面で行われる「個別の保健指導」などがあります。
このように学校保健は、教育のために行われる内容と、教育として行う内容があり、校長先生を始め全ての教職員が取り組むことによって、ヘルスケアが子どもたちに提供されるのです。
その中核となって推進する役割を養護教諭が担っています。教育に学校保健・安全という分野があることや、養護教諭が専門職として学校に常勤しているという制度は、世界に類を見ない日本独自のものとして評価されています。
さらに養護教諭は、「保健室」という学校の中の異空間で、救急処置や相談活動を通して、直接子どもたちに対し養護を体現しています。養護教諭が行う養護とは、一人一人の子どもの人権を尊重し、痛みの改善を図り、安寧と安心、安全を提供することなのです。例えば担任の先生が、教室で国語という教科を教えることで教育の目的の達成を図ろうとすることに対し、養護教諭は保健室という場で養護を行うことで教育の目的を達成するという教育職員であるといえるでしょう。
そして養護教諭の仕事の醍醐味は、何といっても「子どもの心身の成長に寄り添うことができる」ことではないかと思います。担任の先生とは異なる立場から、傷つき、悩み、弱っている子どもたちの求めに応じて、そして健康で元気な子どもたちにも働きかけをして、一人一人の成長を見据えた課題解決を図っていく仕事をする人、それが養護教諭なのです。
現代社会には「養護」が不足しているように思います。子どもたちは「養護」を求めています。学生はそこに、養護教諭という仕事の魅力を感じているのかもしれません。