東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

身近になった真空調理

医療保健学部 医療栄養学科
西念 幸江
最近、低温調理法という言葉をよく耳にするかと思います。肉などの食材を生のまま密閉できるビニール袋に入れ、低温の湯煎で加熱する方法として雑誌などでも紹介されています。小型の低温調理器が発売され、レストランなどで活用されている真空調理と同様の調理が、家庭でも手軽にできるようになりました。

そこで、この真空調理についてご紹介します。真空調理は食材を生のまま、あるいは表面に焼き色をつける等の下処理をして真空包装し、低温(50~95℃)で一定時間湯煎やスチームコンベクションオーブン等で加熱する調理法です。保存する場合は急速冷却を行い、チルド保存し、料理を提供する際に再加熱を行います。

この真空調理の歴史は、1974年、フランスでフォアグラのテリーヌの重量ロスを減らす方法として研究、開発されました。その後、1985年にパリ国有鉄道の車内食堂でこの調理法が取り入れられ、厨房設備が整備されていない場所でも安定した品質の料理を提供することができるようになり、注目されるようになりました。日本においては、1980年代中頃にホテルやレストランで導入され始め、今では病院や社会福祉施設などの特定給食施設などでも利用されています。

この調理法の利点は①食材料を真空包装し低温で加熱するため、素材の風味や旨味が逃げにくい、②低温で長時間加熱するため、肉類が軟らかく仕上がり、歩留りも高い、③チルド保存が可能であるなどがあります。

一方の欠点として①真空包装内で加熱するため、味や香りが封じ込められ、食材が新鮮でないと好ましくない臭いが強調される、②低温で加熱処理するため厳密な衛生管理が求められる、③パッケージコストがかかる、④これまでの調理法とはプロセスが異なるため、レシピ作成に時間や労力を要するなどが指摘されています。

これまでに鶏胸肉を試料として、ジューシーで軟らかく仕上がる加熱条件の検討、水や調味液の高い浸透性を活かし、植物性食品(大豆やりんご)の真空調理法の提案を試みてきました。

大豆は未浸漬、少量の加水での調製が可能であることが分かり、ゆで大豆中のイソフラボン保持率は90%前後、ゆで汁または煮汁への移行は5%前後となり、通常調理に比べイソフラボンのゆで汁への溶出が少なくなりました。通常調理より長い加熱時間を要するものの、作業の簡便性、大豆中のイソフラボンを効率的に摂取するのに有用な方法です。

様々なメディアで紹介されるように、真空調理を利用して家庭でも軟らかくジューシーな肉料理を食べていただけたらと思います。しかし、低温で調理することは、細菌の繁殖しやすい温度帯を利用しての調理となるため、「衛生面からの注意が重要です!」と強調します。調理担当者の手指の十分な洗浄・消毒、包丁やまな板などの調理器具を清潔に保ち、加熱に際しては、十分に行い、安全でおいしい料理を楽しんでもらいたいです。
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