遠隔診療というと、画像診断や病理診断を遠隔の専門医に依頼し診療の支援を受けるというのが、まず頭に浮かびます。これは、医師から医師へのコンサルトと言うことで、Doctor to Doctor(D to D)とも呼ばれています。しかし、この数年、患者と直接対面せず、情報通信機器を用いて行う遠隔診療Doctor to Patient(D to P)が、にわかに注目を集めています。
厚労省は、平成9年の通知で、直接の対面診療が困難な離島や僻地の慢性期疾患の患者の場合は、対面診療と適切に組み合わせることによって遠隔診療を行うことは可能としてきました。平成15年には、情報通信機器の技術の進歩を踏まえ、離島・僻地に該当しなくても、在宅の酸素療法・難病・糖尿病・喘息・高血圧・アトピー性皮膚炎・褥瘡の患者では遠隔診療により患者の療養環境の向上が認められる場合は行ってよいとしました。その後、在宅脳血管障害療養患者と在宅がん患者が例示として追加されています。ところが、平成27年8月、さらに今年の7月に遠隔診療の大転換とも言ってよい、新たな通知が厚労省から出されました。両者をまとめると、離島や僻地に限らず遠隔診療は可能、遠隔診療の対象としてあげてきた疾患はあくまでも例示であって、どのような疾患でも可能、初診も遠隔診療が可能、禁煙外来では遠隔診療のみでも、医師法第20条(対面診療を必須とする)には抵触しないとなっています。さらに、患者との情報のやりとりの手段として、当事者が医師および患者本人であると確認でき、直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られることを条件に、テレビ電話のみならず、電子メール、SNSなどの利用が可能であるとしました。このような対面診療によらない診療は、遠隔診療と言うよりも、「オンライン診療」と呼ぶのが相応しいという意見もあります。SNSや電子メールを使用した場合、診療録にどのように記録として残すか、また診療報酬面での裏付けがないなどの問題はありますが、これらの通達が、遠隔診療の推進を後押しするのは間違い無いと思われます。2025年を迎えるにあたって、医療の供給体制の見直しが喫緊の課題ですが、遠隔診療を導入した在宅医療の推進は、その一つの解決策としても注目されています。
医師の五感による対面診療が不可欠であるという意見は、依然として根強く存在します。しかし、通信機能を備えた在宅で使用可能な医療機器の発達にはめざましいものがあり、対面診療によって得られる情報に代替しうる情報は、遠隔診療でも十分に得られる状況にあると言えます。とは言え、遠隔診療を推進するにあたっては、解決すべき課題もあります。
通院が可能な患者あるいは感冒などの患者が、安易に、またむやみに遠隔診療を利用する懸念があります。診療報酬面での裏付けがないとは言っても、このような診療を許容する医師が出現しないとは限りません。患者、医師両者にモラルが求められますが、濫用を防ぐ仕組みが必要なようです。
高血圧、糖尿病、気管支喘息などの慢性疾患、メンタルな疾患は遠隔診療との相性が良いのではないかと予想されます。しかし、通院が可能なこれら疾患の患者での遠隔診療のメリットとして、「療養環境の向上」と言った漠然としたものでは不十分です。治療のアドヒアランスの向上による合併症発症の減少や、病状の変化に対応したきめ細かな指示による安定した疾患の管理(入院回数の減少など)が遠隔診療によって得られると言った明確なアウトカムの証明が必要です。既に、そのような取り組みの臨床研究が始まりつつありますので、その結果に期待したいものです。